NA2登場と同時にブレーキ変更
NSXは1997年2月発売のモデルからブレーキが変更され、ローターの大径化やピストン径の見直しが行われています。
変更後のブレーキは、よく「NA2ブレーキ」と呼ばれていますが、NA2が登場した1997年以降も、C30A搭載のATモデルの型式はNA1(140型及び150型)だったため、「後期ブレーキ」と呼んだ方が正確かもしれません。
後期ブレーキでは前後ともにローター径が大きくなっていますが、単純に制動力が上がっているというわけではありません。
フロントはローター径がφ282mmからφ298mmに拡大されていますが、実は小さい方のピストンが36.1mmから33.9mmに小径化されており、キャリパー側では制動力を抑える方向に変更されています。
一方、リヤブレーキはローター径がφ282mmからφ303mmに拡大されていることに加え、ピストンも大幅に大径化(シリンダ内径で42.8mmから48.1mmに変更)されています。
サービスマニュアル記載データ比較
| NA1(100~130型) | NA2(140~150型NA1) | ||
|---|---|---|---|
| 前輪 | パッドの寸法 | 132.4 × 55.0 × 11.0mm | 131.7 × 53.5 × 11.0mm |
| パッドの面積 | 58cm2 | 56cm2 | |
| ディスク有効径 | 232mm | 250mm | |
| ディスク外径(※) | 282mm | 298mm | |
| ホイールシリンダ内径 | 36.1mm + 40.4mm | 40.4mm + 33.9mm | |
| 後輪 | パッドの寸法 | 88.8 × 51.5 × 9.5mm | 61.8 × 51.5 × 9.5mm |
| パッドの面積 | 37cm2 | 31cm2 | |
| ディスク有効径 | 228mm | 249mm | |
| ディスク外径(※) | 282mm | 303mm | |
| ホイールシリンダ内径 | 42.8mm | 48.1mm | |
※ ディスク外径はサービスマニュアル未記載のため、実測値。
前後バランスは油圧系統でも変わる
数値だけを見ると、フロントは前期と後期で同じくらいの制動力になるように調整され、リヤは後期の方がかなり強化されているように思えます。
NSXは後期ブレーキに換装すると、リヤの効きが良くなると言われています。ピストン径やローター径の違いからも納得できますが、後期純正との前後バランスの違いを考えるには、油圧系統にも目を向ける必要があります。
初期型ALB搭載車両はPバルブを持たず、前後に同じ油圧がかかる構造とされています。一方、後期ABS搭載車両にはPバルブがあり、リヤ側の油圧を抑えていると考えられます。
このため、前期のALB配管のまま後期ブレーキに換装すると、後期純正よりもリヤ寄りのバランスになる可能性があります。メーカーが想定した後期純正のバランスを再現するには、後期ABS用Pバルブも含めて考える必要がありそうです。
後期ABS プロポーショニングバルブASSY
フロントは、社外対向キャリパーとφ330mm以上のビッグローターを組み合わせるのも魅力的です。
ただ、フロントにブレンボを装着したところ、ブレーキバランスがフロント寄りになってしまい、調整式のPバルブでリヤ寄りに調整する必要があったという話も各所で語られています。
ブレーキは単純な制動力よりも前後バランスの方が重要なので、まずはサービスマニュアルのスペックデータから、前期と後期でどの程度の違いがあるのかを計算してみることにしました。
サービスマニュアルには、ブレーキパッドの制動力が作用する位置を表す「ディスク有効径」が記載されています。この数値とキャリパーのピストン面積を使えば、油圧と摩擦係数が同じ場合の理論制動トルクを計算できます。
それぞれの組み合わせについて計算し、後期純正ブレーキを「1」として、どの程度の差があるのか比較してみました。
なお、比較の基準となる後期ブレーキは、後期ABS用Pバルブを使用した配管を前提としています。
後期型純正ブレーキを「1」とした場合の理論制動トルク比較
| 前輪 | 後輪 | ||
|---|---|---|---|
| ブレーキ構成 | 制動力 | ブレーキ構成 | 制動力 |
| キャリパー:NA2(140型以降NA1)純正 ローター :NA2(140型以降NA1)純正 φ298mm | 1 | キャリパー:NA2(140型以降NA1)純正 ローター :NA2(140型以降NA1)純正 φ303mm | 1 |
| キャリパー:NA1(100~130型)純正 ローター :NA1(100~130型)純正 φ282mm | 0.979 | キャリパー:NA1(100~130型)純正 ローター :NA1(100~130型)純正 φ282mm | 0.725 |
| キャリパー:NA1(100~130型)純正 ローター :GAREGE KITE ビッグローター φ330(※1) | 1.190 | キャリパー:NA1(100~130型)純正 ローター :GAREGE KITE ビッグローター φ340(※1) | 0.910 |
| キャリパー:SPOONモノブロックキャリパー(※2) ローター :NA1(100~130型)純正 φ282mm | 0.871 | - | - |
| キャリパー:SPOONモノブロックキャリパー(※2) ローター :NA2(140型以降NA1)純正 φ298mm | 0.938 | - | - |
| キャリパー:SPOONモノブロックキャリパー(※2) ローター :Biot オフセットキット φ330mm(※1) | 1.058 | - | - |
| キャリパー:NA2(140型以降NA1)純正 ローター :Biot オフセットキット φ330mm(※1) | 1.128 | キャリパー:NA2(140型以降NA1)純正 ローター :Biot オフセットキット φ340mm(※1) | 1.123 |
※1 キャリパーブラケットによりパッド中心がローター外径増加分の半径だけ外側へ移動すると仮定し、有効径を推定
(フロント有効径:250 + 32 = 282mm、リヤ有効径:249 + 37 = 286mm)。
※2 ピストン径36.12mm×4を基に、片押し式と対向式の違いを考慮して理論制動トルクを算出。
後期型は明らかにリヤが強い
前期と後期を比較すると、フロントは後期型になっても理論制動トルクが約2.2%しか増えていません。
フロントはピストン面積が約5%小さくなっており、ローターを大径化した分の制動力を、ピストンの小径化で相殺するような設計になっています。
一方、リヤはピストンの大径化とローターの大径化によって、理論制動トルクが約38%も増加しています。
つまり、フロントは制動力をほぼ変えずにローターを大径化して耐熱性を高め、リヤは制動力そのものを大幅に強化したと考えられます。
社外パーツとの組み合わせを比較
アフターパーツを使用した場合にどのような違いが出るのか、ガレージカイトのビッグローターキット(現在は生産終了)、Biotのブレーキオフセットキット、NSX用も用意されているSPOON モノブロックキャリパーとの組み合わせについても計算してみました。
前期リヤキャリパーのままローターをφ340mmまで大径化しても、後期純正の理論制動トルクには及ばないため、フロントの強化に合わせて後期純正の前後バランスに近づけるには、リヤキャリパーの変更も必要になりそうです。
後期純正ブレーキへの換装に決定
リヤにも社外対向キャリパーという選択肢はありますが、サイドブレーキ用キャリパーの追加などでコストがかさむため、後期純正キャリパーが最も現実的だと思います。
一方、フロントは前後バランスを大きく崩さなければ社外対向キャリパーも選択肢に入ります。ただ、純正キャリパーなら車種専用のブレーキパッドが豊富にあり、メンテナンスや用途に合わせたパッドの変更も容易です。
また、そもそも後期純正ブレーキがどのようなフィーリングなのか、一度しっかり体感しておきたいという思いもあったので、これらを総合的に考え、まずは前後とも後期純正ブレーキに換装することにしました。
そのうえで、見た目や連続走行時の性能などに不満が出てくるようであれば、次のステップとして純正キャリパーを生かしたビッグローターキット(フロント:φ330mm、リヤ:φ340mm)の導入を検討したいと思います。
